鳥の成長と換羽: 実例1



年に一回の換羽をする鳥の例

 ガンやハクチョウのなかまは一年に一回の換羽を行います。 一年に一回、同じ羽衣を新調するので、一年中外見に変化が 見られません。  ナキハクチョウでは、生後20ヶ月後−2年目−での繁殖活動が報告されてますが、通常は繁殖まで4、5年を費やす ようです (Bellrose 1980)。


 それでは成長にしたがって順を追いつつ説明していきます。




 6月、ナキハクチョウの雛の誕生です。 NDというのは雛綿羽 (Natal Down)  の略で、色分けされた棒グラフは "Humphry-Parkes System" による羽衣の変化を示します。 その下のというのは、 "Life-Year System" を元にした鳥の成長段階の呼称で、矢印の範囲が雛の期間をあらわします。 
 6月末の灰色で示す期間は換羽時期に相当します。 第一回目の換羽を経て7月に幼鳥の羽衣 (J: Juvenal Plumage)  を獲得、 この幼鳥の羽衣に身を覆っている期間を幼鳥と呼びます。

1st year

 夏の終わりから、長い換羽時期を通じて最初の基羽 (B I: Basic I Plumage) を獲得します。 ガンやハクチョウの仲間では この時期の換羽はゆっくりと進み、幼鳥の羽衣は部分的に若い鳥の体に残ります。 上の図では、換羽は10月初頭までとして示して ありますが、実際には完全な換羽の終了は通常冬までかかり、個体によっては翌春にまで持ち越されます。   B I に身を覆った個体を、一年目若鳥 (1st Young) または亜成鳥 (Subadult) と呼びます。 見かけはほとんど親鳥と同じですが、 やや灰色がかった色調をしています。

1st year

 次の換羽は5月から7月、ちょうど繁殖活動の時期に起こります。 ナキハクチョウはこの四度目の換羽でようやく成鳥となり、 成鳥の羽衣を獲得します。 この羽衣は一年目若鳥の時期の羽衣とは種類が違うので、B II (Basic II Plumage) と呼んで区別します。  また、B II (要するに、2段階目の Basic Plumage)は成鳥の羽衣で、以降の換羽による羽衣の外見上の変化は起こらないので、 DP: Definitive Plumage (最終的な羽衣 の意)とも呼びます。 成鳥になるまでさらに時間のかかるカモメやワシでは、 DP は Basic III であったりBasic IV で迎えたりします。

ここからは余談ですが…
 誕生から翌年、一年目の若鳥はまだ繁殖活動に入りません。  繁殖を行わない、一年目若鳥を含む個体は営巣地と別の場所で、集まって過ごします。 カモ目のなかまは夏の換羽で風切羽をいっぺんに交換するので、 新たな風切羽が生えそろうまで飛べない時期があります。 集団はしばしば営巣地より更に北へ移動してからこの飛べない時期を 過ごすので、この大移動をMolt Migration (換羽の渡り?) と呼びます。

次ページ:マガモ


参考文献

  1. Baldassarre, G. A., and E. G. Bolen. 1994. Waterfowl Ecology and Management. John Wiley & Sons, Inc., New York.


  2. Bellrose, F. Chapman. 1980. DUCKS, GEESE & SWANS OF NORTH AMERICA. -3rd ed. Stackpole Books, Pennsylvania.