ヒレアシトウネン (Semipalmated Sandpiper): Calidris pusilla

Semipalmated Sandpiper
Barrow, Alaska (25 July,2005)

体長、約14cm。 最も小さな鷸(シギ)の仲間であるな。 

共働きしてます

 この小さく地味な鷸、これといった特徴を見出せぬ。 強いて言えば、その名の通り、肢の指の間に僅かなヒレがあることか。  しかし、一体どんな役割を果たしているのか、はたまた進化の名残であろうか?  
 他の多くの鷸のなかま同様、鰭足当年【ヒレアシトウネン】は夫婦で子育てを営む、一夫一婦制の鷸である。

stopover Quartz Lake, Alaska (15 May,2005)  五月半ば、アラスカ中央部の湖畔で忙しげにぬかるみをついばむ、小さな鳥の群れを 見かけた。 鰭足当年だ。 彼らはまさに、アラスカの北端へと渡る、その途上。 力を補給するために、 この湖に立ち寄ったようだな。 
 五寸に満たぬ小さな体のこの者たちは、はるか南米より 3,000km を旅する、 信じがたい力を有しておる。 

on tundra Barrow, Alaska (7 July,2005)  半月後、予がアラスカ最北の地、バローを訪れたとき、彼らはすでに繁殖活動の 真っ最中であった。 比較的、乾いた場所を繁殖場所として好むようだな。 菅(スゲ)の生い茂る場所では、 雄が縄張りを主張して、雲雀のように空から声を張り上げる。
 一夫一婦制の彼らは、交代で巣を暖める。 仕事が似ると姿も似るのか、外見からの男女の判別も難しい。  一方が卵を温めている間、他方は周辺で虫を喰らいつつ警戒線を張っておるようだ。 侵入者を発見すると、すばやく 警告を発し、巣を暖めていた者はすばやく飛び出して巣から離れる。
nest Canning River Delta, Alaska (1 July,2004)  鰭足当年の巣、そして卵。 鷸や千鳥の仲間は、決まって4つの卵を産む。 ひとつ ひとつの卵は、親の体に対しては大きく、4つ合わせると親とほぼ同じ重さというから、産卵がいかに大仕事かが伺える な。 加えて、長旅の後の産卵なわけだ。 信じがたい身体能力だな。 
 左にあるとおり、巣は菅の叢のなかに設けられておる。 見てのとおり見つけにくそうな巣、親はすばやくこの巣から 離れることによって、外敵から巣の位置を晦ますという訳だ。
attract Barrow, Alaska (25 June,2005)  しかし、巣に侵入者が近づきすぎると、親は身を呈して巣を守ろうとする。 羽毛を膨らませ、体を地に竦ませ、激しく鳴き騒ぎながら侵入者に近づく。 追いかけると、寸でのところで身をかわし、 相手の注意を引き付けつつ、少しずつ巣から遠ざかる。
 体の小さい彼らが、巣を守るための苦肉の技なのであろうな。 
sneaking Barrow, Alaska (26 June,2005)  ようやく侵入者が辺りに見当たらなくなると、辺りを警戒しつつ、急いで巣へと戻る。  春を迎えたとは言えどまだまだ寒い極北の地、そう長く卵を冷気に晒すわけにもいかぬしな。 
 体勢を屈めて、密かに素早く移動する親。 真っ直ぐに戻らず、迂回しつつ周囲をうかがう。 しかし、 場所が悪いのか、丸見えだな。
parental care Barrow, Alaska (17 June,2005)  ようやく巣に戻り、卵たちを確認。 どうやら、皆、無事であったようだな。 親鳥の姿にも安堵が窺えまいか?
 こうして、およそ19日間、親鳥は交代で巣を暖めつづけ、卵はやがて孵化を迎える。 
hatchling Barrow, Alaska (2 July,2005)  生まれて間もない鰭足当年の雛。 卵から孵った時から体は羽毛に包まれており、 体が乾くとすぐに歩き始め、虫を自らついばみ始める。 親鳥の役目は、餌場への誘導や外敵への警戒、 また孵化後約一週間は寒さから守ってやる必要もある。
 左の雛はまだ足取りも覚束無いから、恐らく孵化してから 一日かそこらしか経っておらぬのであろうな。 
chick Barrow, Alaska (10 July,2005)  卵から孵り、二週間後にはもう飛べるようになるという。 短い夏であることや、 外敵から身を守る術を身に付けるためにも、早く成長する必要があるのであろう。 
 …それにしても左の雛、不均衡な体つきじゃな。 飛べるまでの間は、脚力が重要であるのは分かるが、 さながら足だけ大人といった感じだ。
blood rearing Barrow, Alaska (10 July,2005)  親鳥の監視の元に。 巣立った雛たちは、食料の豊富な水辺へと、親鳥によって 導かれる。 この時期、凍原は繁殖活動も終わり静まり返るが、水辺に近づくと鷸の親鳥たちからブーイングの嵐を 受ける。 
 ちなみに、鰭足当年の母親は、孵化後十日ほどで雛たちの下を去り、残された雛たちは父親によって残りの期間の 世話を受けるらしい。 父鳥偉い!と思うかも知れぬが、それだけ母親にとって産卵の負担が大きいのかも知れぬな。